口腔保健用機能性食品研究会へようこそ!!
理事長 高橋信博
2020年1月より、本研究会理事長に就任いたしました東北大学大学院歯学研究科の高橋信博と申します。
本研究会は2011年8月21日、同年3月11日に発生した東日本大震災の被害がまだ生々しく漸く復旧・復興が本格化する中、世話人有志によって設立され、以来、口腔疾患予防のための機能性食品について、年1回の総会・大会を開催し、広く学術的立場から議論を行って参りました。2011年8月10日には「歯科口腔保健の推進に関する法律」が施行され、「国民が健康で質の高い生活を営む上で、口腔の健康が基礎的かつ重要な役割を果たす」という認識を初めて国が明確に示した「口腔健康元年」でもありました。さらにその年は、1991年に特定保健用食品(トクホ)制度が始まって20年目の節目の年でもありました。1998年4月には、厚生省(当時)から『代替甘味料を関与する成分とし、「むし歯にならない」等の旨を表示する特定保健用食品の申請・評価に関する指針 -ガム,キャンデーの場合- 』が通知され、これに基づいた齲蝕予防に関するシュガーレスガム・キャンデーが一気に市場に広がりました。当時、トクホ食品の登録件数は増加の一途にあり、その中に占める歯科用トクホの割合も高い水準を誇っていました。
しかし、齲蝕以外の口腔疾患、とくに歯周病に関する歯科用トクホについては、ニーズは高いものの、歯周組織の炎症という歯周病の病態を特定の食品成分によって選択的に予防することは容易ではないことが分かってきました。むしろ、食品によって口腔細菌叢を健全化することが、齲蝕、歯周病、口臭といった口腔細菌性疾患の予防に繋がるという考え方が主流となり、加えて、口腔細菌叢に含まれる特定の細菌種をターゲットにするのではなく、細菌叢全体のバランスを保つことの重要性が認識されつつあります。さらに、口腔保健用機能性食品は、齲蝕、歯周病、口臭といった口腔細菌性疾患の予防にとどまらず、摂食・咀嚼・嚥下や味覚等の口腔感覚を含めた口腔機能の維持・向上にも資することが明らかになって参りました。
このような口腔保健用機能性食品を巡る状況の急速な変化の中、本研究会は、特定の口腔疾患のみならず、広く口腔保健の向上に資する機能性食品やそれに含まれる機能性成分に関する知見について多方面から議論を行う場へとトランスフォームしつつあります。これは本研究会の成長過程であり、暫くは口腔保健用機能性食品の間口を拡大し、その多様な可能性の享受に身を委ねたいと思います。その過程で、新たな機能性食品や機能性成分が現れ、基礎研究から臨床研究へと発展し、やがて、口腔保健用機能性食品として社会実装、社会実証されることを目指します。また、本研究会活動を通し、ようやく端緒についた食品学・栄養学の歯科医学への導入を促進するとともに、既存の栄養学・管理栄養学領域への口腔に関する事項の導入を先導していきたいと思います。
以上のことを踏まえ、口腔保健用機能性食品研究会の役割は次の4項目といたします。
(1) 口腔健康の維持・増進および口腔疾患の予防に資する機能性食品や機能性成分に関する研究発表と情報交換
(2) 口腔健康の維持・増進および口腔疾患の予防のための機能性食品や機能性成分の評価方法の提言
(3) 口腔健康の維持・増進および口腔疾患の予防のための機能性食品の開発、社会実装・社会実証の実践
(4) 食品学・栄養学の歯科医学教育への導入の促進および既存の食品学・栄養学への口腔に関する事項の導入の先導
多くの皆様が本研究会の趣旨にご賛同下さり、本研究会活動にご参画下さることを心よりお待ち申し上げます。
2021年2月